アメリカで最先端の患者の権利を調査研究してきました(第7回)

医療療倫理小委員会米国調査報告第7回、 Carol Tayler 先生のお話しです。

(承前)生命倫理的に正しいとか、こうあるべきだということで決定できても、それを実行できるかということになると、理想的だが実行できないということもよくあります。そういう時には、理想と現実のギャップで、しんどい思いをすることがあります。精神的に辛い思いをするのは、ナースの場合に多いと思います。

外科医が傷口を洗浄する。とても痛いので、患者のアドボケイトが「ぜひ麻酔を使ってくれ」と言うのですが、医師は「必要ない」と言います。看護師が事務方に言うと、「あなたの仕事は患者の権利の擁護ではなく、医師と一緒に治療することだ」と言われてしまった。そうなると看護師は「こうありたい」という気持ちと、実際やってもらえないということで、ジレンマに陥ります。

医療面だけでなく、経営側との対立ということもあります。骨髄移植が必要だが、家族は貧しくてお金を持っていない。その手術には 200万ドル(2億円以上)かかるということでした。病院としてのジレンマですが、それをやらないといけないのかどうかです。もしそれをしてしまうと、15人を一時解雇にしないといけないということがあります。

熱弁をふるうテーラー先生

熱弁をふるうテーラー先生

ですから、生命倫理の委員会でやることは、臨床的な問題、経営的な問題、法律的な問題、その中で生命倫理を実践しなくてはいけないということで、それぞれの立場のいろんな意見、あるいは悩みとかを話し合うのがその委員会です。

それぞれの立場でそれぞれあるべき姿というのはあるのでしょうが、病院として持たないといけないのは、生命倫理のリーダーです。患者を守るための機能が必要であるということです。

これまでのお話で、コンサルテーションに関しての高いレベルの能力が求められるのがお分かりになると思います。つまり医療従事者の間で対立を招くようなことはしてはいけないわけで、お互いに戦わせてはいけないのです。お互いのスキルを最大限に尊重して、一番いい方に持っていくというコーディネーター的な能力とかまとめ役とかが求められるわけです。

東洋と西洋の文化の違いもあると思います。チームのハーモニーというのは、誰かが黙ることによって静かに物事の調和がとれていくものではなくて、それぞれが声を出して、その中でハーモニーを作っていくことが大事です。

(終わり)