アメリカで最先端の患者の権利を調査研究してきました(第12回)

米国調査報告第12回、 Ann Neale さんのお話です。

(先ほど述べた同心円の)一番外側が国の政策で、これは避けがたい事になりますし、文化的な制約に従う必要があります。その中にあるのが、米国であればキリスト教、また、地域のシステムや組織のやり方があります。一番内側に個人の分野、実際に医療行為を受ける、あるいは医療行為を行う分野があります。一番真ん中の小さいマルの中にいるとしても、組織に対する責任もあるし、社会や国に対する責任もあります。組織で働く個人に対する責任もあります。

社会と国が同じ存在であるとして、政府は医療機関に対する責任を持っているし、医療で働くスタッフに対する責任もある事になります。これは大変重要な事です。道徳やモラルというものを考える時、こういった色々な要素がある事が大事です。

アン・ニールさんに 患者の権利章典の説明を行っています

アン・ニールさんに
患者の権利章典の説明を行っています

人が道徳について考える時、「私は自分自身の良心に従って行動しています」という言い方をする人がいますが、実際には、自分が属する組織や医療機関に影響をされています。やりたいと思ってもやれないという制約がありますが、逆に、医療スタッフがもっている道徳感が、自分が属する医療機関にいい影響を与えるかも知れません。

医療機関が職員を傷つけるかもしれないし、外の円にある国の政策が組織に対して影響を与えるかもしれません。

病院がすべての人にきちんとしたケアを与えたいといっても、国がそれに呼応する政策や医療保険制度がきちんとしていなければ、よいことをしたくてもできないという制約を受けます。私は日本の医療機関の方がうらやましいと思います。日本の社会の制約は、米国に比べればより一層公平で、より一層フェアーであるような気がします。だから、そういういい環境の中にある医療機関ではもっといい事が出来るはずだと思うのです。

もちろん米国の組織が、国がこうだから、自分の組織の事だけを考えていればいいのかというと、そうではなく、国の政策に影響を与えていかないといけないと思います。

組織のモラル、道徳的責任はどういう事かというと、3つの点があります。一つは医療行為を行う人( care giver )の責任、2つ目が医療機関の雇い主としての責任とビジネスパートナーとしての責任、3つ目が corporate citizen 、企業市民というか社会に対する責任。ここで強調したいのは、それぞれの組織の中に、チームのリーダーなど個々人の決定に着目するだけでなく、組織全体の倫理に関連する決定のあり方です。

(つづく)